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特別座談会「自主研とSDGsのこれから」

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「高木超の "自主研×SDGs" 応援プロジェクト!※現在は期間終了」を実施するにあたり、自治体の自主研活動に造詣の深い4名の実践者のご協力を得て、「自主研とSDGsのこれから」をテーマとする座談会を開催しました。モデレーターを高木が務め、SDGsの自治体での活用や、これからの自主研の展望まで4人に語っていただきました。

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​加藤 年紀

Toshiki Kato

株式会社ホルグ

代表取締役社長

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関東自主研サミット実行委員会
 

​坂本 勝敏

Katshutoshi sakamoto

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仁平 貴子

NPO法人6時の公共
​代表理事

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株式会社ぎょうせい
月刊ガバナンス 副編集長

Takako NIHIRA

三海 厚

ATSUSHI MIKAI

❝SDGsは、自治体と自主研にどのような影響を与えるのか❞

❝SDGsは自治体においても確実に広がっているが、具体的な活用はこれからの課題❞

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本日は(オンラインで)お集まりいただき誠にありがとうございます。
早速ですが、自治体職員の間でSDGsの認知度は高まっていると感じますか?

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私が非常勤職員をしている生駒市(奈良県)は、内閣府からSDGs未来都市に選定されており、各種計画の中にSDGsの観点が明記されているので、広まってきている印象があります。

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少しずつ広まっていますよね。ただ、SDGsという概念は理解していても、総合計画に反映するといった具体的な活用までは至っていない自治体が大半という印象があります。SDGsのゴールにも掲げられている「ジェンダー平等の実現」の文脈で、LGBTQ(性的少数者)も、新たな視点をもたらす単語として、徐々に広まっているように思います。

『月刊ガバナンス』では、2年前の2018年8月号でSDGsを特集しました。その後の動きを見ているとSDGs未来都市に選定された自治体も年々増えていますし、SDGs官民連携プラットフォームにも、多くの自治体が加入しています。「SDGsを地方創生の原動力とする」と、第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」でも明確に位置づけられているので、更に広がっていくと思います。
 

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保守的な自治体では、アルファベットで表現されるものはあまり得意ではないですし、SDGsを反映するとしても、いわゆる環境計画や各課が所管する計画に多少言葉として引用される程度に留まってしまう印象があります。坂本さんがおっしゃったように、SDGsは、総合計画のように自治体の上位に位置づけられるべきものだと思いますが…。

❝総合計画にSDGsを反映させる際に、気を付けなければならないポイントがある❞

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ありがとうございます。坂本さんや仁平さんから総合計画のお話も出ましたが、総合計画も含めて、自治体の業務ではどのようにSDGsを活用できそうですか?

SDGsの特徴である「バックキャスティング(達成すべき目標を定め、目標から逆算して現在の計画を検討すること)」という思考のアプローチを活用して、自治体の総合計画を作るのは有効だと思います。そのためには、事務事業の抜本的な見直しをしていかなければなりませんが、簡単ではないですよね。

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そうですね。あとはSDGsという大義名分があると、本当に必要な事業を進める追い風になります。例えば、SDGsのゴール15「陸の豊かさも守ろう」といった観点は、これまで都市部の自治体であまり焦点があたらなかった分野だと思います。そういった分野の必要性を改めて確認し、施策を推進するために使っていけるように感じます。

自治体でも起こりがちなことですが、単純に「計画づくり」が目的になってしまうのは避けたいですよね。政府による地方創生の計画も自治体の総合計画も、単純にSDGsのゴールをタグ付けするだけでは意味がありません。SDGsは持続可能性を扱っているのですから、人口減少や少子高齢化などに直面する日本の自治体にとって、非常に重要な課題です。取材をしていて感じるのは、SDGsの活用は民間の方が進んでいるということ。SDGsというグローバルスタンダードが、自社の経営方針に反映されていなければ、もはや取引先や株主に選んでもらえないという危機感を各企業、特に大企業や、その関連企業は持っています。公民連携や公共調達の文脈でも、SDGsというグローバルスタンダードの存在感は更に高まるのではないでしょうか。

企業の取組については、活動事例をSDGsと紐付けて表現している本なども多く出版されていて、読んでみると非常に理解しやすいです。自治体が行う事業はすべてがSDGsに合致する分野であるはずですし、そうでなければならないと言えます。以前、「コンプライアンス」という言葉が注目された時期がありましたが、その概念が示すこと自体は自治体もずっと昔から取り組んで来たことです。SDGsも外来語で新しい概念のように聞こえるけれども、もともと自治体が行ってきたものではないでしょうか。

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既に総合計画がある中で、改めて「この事業はSDGsのこの目標に紐付いています」と言う必要があるのか、大義がある中に大義を重ねることに意味はあるのかといった疑問はあります。つまり、SDGsも使いどころを考えなければならないと思います。

❝SDGsに関する勉強会を主催する自主研は徐々に増えている❞

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なるほど、SDGsの活用の仕方は依然として検討の余地がありそうですね。自治体も民間企業以上にSDGsに深い関係がある点は、自治体職員が改めて認識しなければならないと思います。既に積極的にSDGsをキーワードにした取り組みを、自主研単位で行っている事例はございますか?

千葉県内の有志の職員が集まるネットワークから、スピンオフして誕生したNPO法人「6時の公共」の中には、自治体運営においてSDGsの考え方を広める活動について精力的なメンバーもいます。SDGs関連のカードゲームのファシリテーター資格を自主的に取得し、各地の自主研から呼ばれるなどしています。
​※ 参考インタビュー記事)6時の公共プレイヤーズインタビューVol.2

仁平さんが紹介してくださったように、SDGsカードゲームを自主研で行っている例はFacebook等で見かけますが、それ以外のアプローチで研修しているのは、私も聞いたことがないです。

私見ですが、自主研というゆるめな空間で、参加者を「カードゲーム」で(意図して)釣ることはできても、自分の仕事やスキルに直結して役に立つとか、そういう発想で仕事に当たらねばというマスト要件的な感覚が持ちにくいイメージから、いきなり真面目な講義スタイルで釣るのは、ちょっとハードルが高いかもしれませんね。

1年ほど前に「2030 SDGs」カードゲームを開発した一般社団法人イマココラボを取材させてもらいましたが、ゲーム後の振り返りなどのSDGsに関するワークこそが重要だと話していました。カードゲームには「2030 SDGs」「SDGs de地方創生」などがありますが、いずれも公認ファシリテーターの資格を取得しないと開催できません。そういう意味では、高木さんの本で紹介されているように、誰でも簡単に準備できる物品で行えるワークショップは、自主研にとって入りやすいのではないでしょうか。

❝自主研での活動は、必ず本業にも活きる!❞

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拙著のワークショップにも嬉しいお言葉をいただき恐縮です。部署や年代を超えたネットワークを構築する自主研は、同じく分野横断型のSDGsを庁内で推進する中で、大きな推進力になり得ると私は感じていますが、皆さんはどうお感じでしょうか?

部署や年齢構成がバランス良くなっているのは、たまたまだと思います。というのも、自主研の活動に関心がある人が集まって構成されているだけで、年代や部署のバランスを考えて組織している訳ではないのが実際のところです。

そうですね。あと、こういった自主研の活動が、公務で思いどおりの仕事をさせてもらえないことへのフラストレーションのぶつけどころ、危ない変わった人たちの集いかのようなネガティブなとらえ方をされてしまうこともたまにあるのが、悲しい実情です。

自主研もそうですが、本の出版も歓迎しない職場も多いですよね。「目の前の業務に集中していない」と言われてしまうこともあるようです。

そういった状況も踏まえて、弊誌では「自主研の後押しをしたい、良い活動なのをきちんと伝えたい」と思っています。自主研は広範なネットワークがあって、自治体同士や、自治体以外のアクターとのハブになっています。先ほどのお話にあったSDGsのカードゲームの公認ファシリテーターと自治体をつなぐ窓口にもなります。自主的に研鑽を続ける彼らの意欲を低下させてしまうのは、自治体にとってももったいないですよね。

「6時の公共」でも、講師を招いて勉強会を開催していますが、講師を選ぶ目利きに対して「彼らが選ぶ講師なら間違いない」という信頼を感じますし、公務に戻って、自治体で行事や研修を開催する際に、こうした自主研でのネットワークや学びを直接的・間接的に役立てている方がいらっしゃるという実感があります。

❝自主研の運営も持続可能な観点が必要!?❞

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自主的に自分の時間を使ってスキルを高めたり、ネットワークを構築して業務にも還元したりすることができる自主研の活動が正当に評価されないのはもったいないですね。現役の自治体職員であり、自主研の運営にも携わる坂本さんと仁平さんにお伺いしたいのですが、自主研の運営を持続可能に行う上で、何か課題はありますか?

継続するのが必ずしも是ではないですけど、継続を目指すのであれば、毎月1回の定期的なペースで勉強会を開催していくと成功しやすいことが、先日行った自主研を対象としたアンケート結果からわかっています。運営側のスタッフが学びたくて進めているのも実態としてあります。運営側が楽しんで続けられるのが重要です。

「6時の公共」も、前身の活動は任意グループとして続けていましたが、実際のところ運営は大変でした。ここまで大変なら、いっそのことNPO法人にして、外から見たときの信頼度や発信力を上げたり、財政的な基盤もちゃんと整えたりしていこうと思い、法人化することにしました。大変さはありますが、あえて退路を断って、エネルギーを注いでいるわけです。

自主研の活動を持続可能にするのも、工夫と労力が必要ですね。

❝総合計画にSDGsを反映させる際に、気を付けなければならないポイントがある❞

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最後に、加藤さんと三海さんにお伺いしたいのですが、HOLG.jpや月刊ガバナンスの運営・編集を通じて、多くの首長や自治体職員と関わる中で、SDGsに対するニーズや期待はどのようなものがございますか。

まず、自治体が「持続可能な社会をつくる」という軸を持つのは良いことだと思います。自治体では、日々積み重なる目の前の業務に集中していることが正しいとされる風潮がありますが、目の前の仕事を今のままのやり方でこなしていては、5年後10年後に同じ量と質で成果を出すことはできなくなっています。限られた財源がさらに絞られていく状況下では、先のこともあわせて考えなければなりません。SDGsの活用については、次の3つが考えられると思います。1つ目は、「ゲームチェンジ」です。自治体の政策は、一度初めてしまうと簡単には変えられない、止められないという特徴があります。そこで、「持続可能なまちづくり」というSDGsの観点から政策を見直して、必要でないものは政策終了を考え、本当に必要な政策にシフトすることができます。2つ目は、「共通言語」であるということです。株式会社ホルグでは「地方公務員が本当にすごい!と思う公務員アワード」を開催していますが、とある企業に協賛を持ちかけた際、「SDGsの関連予算があるのですが、SDGsには紐付けられないのですか」と尋ねられたことがあります。民間企業など庁外とやり取りをする上で、SDGsは重要な「共通言語」として、外部組織との連携を促進するツールになりえます。3つ目に、自治体の縦割りを打破する可能性があると感じています。SDGsで掲げられた17のゴールを解決するためには、特定の部署だけでは不十分です。部署を超えて、SDGsという目標の達成に向けて、新たな組織の形態を検討する可能性があると言えるのではないでしょうか。

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SDGs未来都市をはじめとした先進都市は確実に動いています。SDGsに取り組むことで、地方創生関連の交付金を使うこともできるので、SDGsを推進することのメリットは大きいでしょう。先ほどSDGsはグローバルスタンダードだという話をしましたが、今回のコロナ禍で世界はつながっていることを自治体職員も改めて実感したのではないでしょうか。頻発する豪雨災害など気候変動の影響も日本の自治体は確実に受けています。こうしたグローバルな課題に対応するには、SDGsの視点は欠かせません。SDGsに取り組むことで、国内の地域も世界とどのようにつながっているかを実感できるのではないでしょうか。まさに“Think Globally Act Locally”の精神についてSDGsを通じて考えてほしいと思います。

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SDGsの意義を改めて整理して頂きありがとうございます。また、みなさまにはSDGsの具体的な活用方法もいくつか示して頂きました。SDGsについて、自治体の研修はもちろんのこと、自主研の勉強会でもこれから取り上げられる場面が増えると思います。多くの自治体職員にSDGsについて知ってもらうことで、今後の展開も期待できるように感じました。本日は貴重なお話をありがとうございました!

座談会にご参加頂いた4名のプロフィール(五十音順・敬称略)

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▶ 加藤 年紀(株式会社ホルグ代表取締役社長)

2007年、株式会社ネクスト(現・株式会社LIFULL)入社。2012年、同社インドネシア子会社「PT.LIFULL MEDIA INDONESIA」の最高執行責任者(COO)/取締役として出向。子会社の立ち上げのため、ジャカルタに4年半駐在。2016年9月に同社退社後、同年11月に株式会社ホルグを設立。「地方自治体を応援するメディア」「地方公務員アワード」「地方公務員オンラインサロン」等を運営。2019年に有料コミュニティ「地方公務員オンラインサロン」を運営。三芳町魅力あるまちづくり戦略会議政策アドバイザー(H30)。生駒市役所非常勤職員。著書に「なぜ、彼らは『お役所仕事』を変えられたのか?――常識・前例・慣習を打破する仕事術(咢堂ブックオブザイヤー2019受賞)」。

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▶ 坂本 勝敏(関東自主研サミット実行委員会・大和市役所職員)
神奈川県大和市役所入庁後、財政課、障害福祉課、教育総務課、すくすく子育て課を経て、現在は病院事務局経営戦略室の係長として、病院の経営改革に取り組む。庁外では、スキルを高める勉強会などを主催する自主研修活動に深く関わり、2012年から大和市自主学習グループ「Y-G」代表を務める。神奈川県自治政策研究会「K33ネットワーク」にも参画し、広域で自主研グループが一堂に会する関東自主研サミットの実行委員会では代表的な役割を務めながら活動している。

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▶ 仁平 貴子(NPO法人6時の公共 代表理事・千葉県庁職員)

大学では国際関係学を専攻、在学中に1年間休学の上、シンガポール国立大学に派遣留学も経験し、開発学や東南アジア地域研究に取り組む。民間企業や在京大使館勤務等を経て、2007年千葉県庁入庁。現在、NPO・市民協働推進の課にて、東京2020オリンピック・パラリンピックの都市ボランティア業務を担当。有志の公務員によるネットワーク「チーム千葉県」の学習会運営をベースに、2017年12月、NPO法人「6時の公共」を設立。市民や地方議会議員、自治体職員が共に集まり、これからの自治体運営に必要な知識を学び、対話することで、新たな知恵を生み出すコミュニティの拡大に取り組む。

「NPO法人6時の公共」ウェブサイト

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▶ 三海 厚(月刊ガバナンス 副編集長)

1966年東京都生まれ。中央大学法学部卒業。証券会社勤務を経て91年11月に株式会社ぎょうせい入社。請負出版の営業、編集部門を経て99年から月刊『地方分権』の編集に携わる。2001年から月刊『ガバナンス』を担当。08年4月から副編集長。特集や自治体職員の自主研究グループなどを紹介する連載『もっと自治力を』などを担当している。

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